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イラスト中心で自由な感じ。[ユルく楽しくオリジなる]なブログです。

ノベル[フォトグラ!]piece4
~フウ前ノ灯~

「はい、蛍倉フウに会いに来ました。はい、はい…」

真っ白な壁が続く建物の中。カエデは隣町にある「フウの家」に来ていた。

腰かけ椅子が廊下に並び、数多くの部屋の中にはベッドなどが垣間見える。

この場所がフウの住処になったのは、別に昔々のお話ではない。
その日カエデは一日中部屋でゆっくりしている予定だった。テレビをつけて、寝転がって漫画を読み漁る。そんな平凡な日常を、フウも過ごしているはずだった。

「あら…?お兄様、この方はどなたです?」

フウは家族写真を指差していた。その指先では、フウの母が微笑んでいる。

カエデは最初、フウの皮肉かと思った。二人の親は海外で仕事をすることが多く、いつも家を留守にしているからだ。

「何をおっしゃっているのです?お兄様。フウ達には、親なんていないではありませんか。変なお兄様」

そのときはまだ何も分かっていなかった。その日から、フウの人生は…いや。俺たちの人生は、ネジのように少しずつ巻き戻されているんだ――


廊下の隅の方に、幼げな少年がいた。彼は絵を抱いて座っている。…ヒキノエだ。結局、カエデ達と一緒にここまで来たのだ。

「カエデ先輩…」
「あのっ今日はスミマセンでした!」
「先輩に頼まれてたのに、」
「フウちゃんには初めて会う体で接しなきゃいけなかったのに、」
「つい、いつもみたいに話しちゃって。」
「ホントに…ゴメンなさい…」

目に涙を浮かべ、言葉に詰まりながらカエデの許しを乞う。

「いいや。謝るのは俺の方だ。無理言ってフウに会わせてすまなかった」

「付き合ってる彼女に忘れられるっていうのは、ホント、悲しすぎるよな。言葉じゃあ軽すぎるくらいに」

「いいんです。僕だってフウちゃんに元気になってほしいですし。そのために協力できるなら何だってしますよ」

カエデから少し視線を外し、壁の方を見てつぶやくように話を続けた。

「この絵だってそうです。天使の絵…フウちゃんがモデルになってくれたこの絵を見せれば、何かが変わるかもって。フウちゃんが気に入ってくれたモノだからって思ったんですけど…」

大切にしているその絵に、2、3滴の雨が流れる。

「僕たち、今度も同じ学校だねって…ずっとずっと、一緒だよって言ってたのに」

「ふわっ…フウちゃん。ううぅ…」

いつしか雨は滝となり、唯一無二の絵は、ただのくしゃくしゃの紙に戻りそうになる。

震える手で、ヒキノエはそれを必死に掴んでいる。

「フウの口癖は、ヒキノエの真似なんだってな。聞いたよフウから。お前のことは完璧に忘れたわけじゃない。そうさ。変わらないものだって、あるんだ」

行くぞ、と一声ヒキノエに掛けてから、カエデは前を行く。ヒキノエは言葉もなくその横を歩き出す。


部屋の前に来ると、今度は入口でチカが待っていた。

「ホトクラ兄ぃ!ホトクラ…ホトクラが、またっで聞いでアダジのぜいだぁぁ!!」

「いいから、まずは鼻をかみな」

カエデがハンカチをポケットから取り出すと、チカは乱暴にそれを掴み取った。

「ズビィ~~…。でもでも!ホトクラがアタシのこと不良なんて言うから!ついカッとなって!それでついワッとさぁ!」

チカが殴るポーズをとる。しかしその構えは、先ほどのそれとはかけ離れた弱弱しさだった。

「それはそうだろ。フウに…友達にそんなこと言われたんだ。辛かったよな」

「あったりまえだ!…ぐすっ。親友が一人、消えたんだぞ!頭がおかしくなるかと思った」

目を開ききり、頭を抱え床を睨む。

「確かにそこに存在しているのに。なのに、アイツの中にアタシはいないんだ。もう嫌だよ、ホトクラ兄ぃ」

そこでようやくカエデに視線を配った。

その視線には、思いやりという余裕は存在していないようだ。

「アンタになんか出会わなきゃよかったんだ。そうすりゃ、ホトクラのこんな…ズズ~~っ、こんなこと知らなくて済んだのに」

「…スマン。フウだったら、友達に隠し事なんてしないと思ったんだ。フウは、純粋なやつだから」

「テメェに何が分かんだ!ホトクラの兄貴だからっていい気になりやがって。いいよな、ホトクラに愛されてて!どーせアタシなんて――!」

「やめてくださいよ二人とも!!フウちゃんに聞こえるじゃないですか!」

ようやくヒキノエが声を発する。その後しばらく続いた静寂の中を、やはりカエデが前へ歩き出した。


「フウさんの担当をしている者です。こんにちは」

「先生。フウはどうです?」

後輩二人の挨拶もそこそこに、真っ先に切り出したカエデ。彼に対して、その人は優しい顔を見せる。カエデが先生というその人は初老の男性で、世界の終りが近づいたとしても全く動じないであろう貫禄を持ち合わせていた。

「今はベッドで休んでいますよ。慣れない長旅で疲れたのでしょう。お兄さん、無理はいけませんよ?」

「おい、ホトクラは元に戻んのか!?」

チカらしい直球の質問を投げかける。それに対し先生は少しだけ間を置き、ほどなくため息をつく。

「お友達ですか。フウさんは幸せですね。こんなにも思ってくれる人がいる。それだけに…残念です」

ガタン。音が先か、机の上にチカの足が乗る。腕を組み、氷よりも冷たい表情で淡々と問い詰める。

「なぁおっさん。言っとくけどアタシ冗談は嫌いなんだ。アタシはホトクラが戻るのか聞いてる。アンタは問題ないって言えばそれで解決だろうよ!」

「チカ!先生にあたるなよ。しょうがないんだ」

カエデに諭され、渋々と足を下げる。

「それで?フウちゃんはどんな状態なんですか?」

「今まで色々な人を見てきましたが、フウさんは特殊なタイプです。まるで、何もなかったかのように全てを思い出したり、かと思えば忘れてしまったり。とにかく不安定としか」

ひたすらに髭を触る先生は、今度は顎に触れる。

「とにかく、お兄さんの事を憶えていてくれたのが救いですね。なにかあっても、あなたの事は憶えている。それがどれだけフウさんを支えていることか」

「それほど先輩が大事だったってことですね…」

ヒキノエがカエデに目をやると、先生は大きく首を振る。

「いえ、それは関係ありません。大事なものだろうとなんだろうと忘れてしまう。それがこの――」

「おや。お兄さん、そちらのバッグ重たそうですね。よろしければこちらへどうぞ」

ベッドの横にあるカゴを指定される。しかしそれをカエデは拒絶した。

「いえ、大丈夫です。フウに見つかると面倒なので。自分で持っていたいんです」

「あ?何が入ってんだ?」

チカがカエデのバッグを覗き込む。暗くてよく見えなかったが、たくさんの何かがそこにはあった。

「写真だよ。フウが撮ったな」

カエデがバッグの口を広げると、フォルダが4~5冊、ゴロゴロと転がってきた。爬虫類でも見たかのようにチカが目を丸くする。

「はぁ!?それ全部ホトクラが?何枚あるんだよ、おい!」

「ずっと考えてたんだ。どうしてフウは俺の事だけ憶えてるんだろうか。俺なりの考えだが、兄妹だから、じゃないんだ。きっと運命っていうか、何か特別なつながりなのかなって。それはもしかして、二人が好きだった写真じゃないかって」

「だから俺は、この街の写真をフウに撮ってもらったんだ。フウがまだ知らないこの故郷を。何かが変わるわけじゃないかもしれない。でもさ。可能性はきっとあるよ。写真は『過去』を写すだけじゃなくて、『未来』も写せるんだ。」


「ふわぁ…?ここ、フウのお家ですか?」

全員が横のベッドを見た。フウが半身を起こしてこちらを見る。

「あら?お兄様…」

「よかった…フウ、まだ記憶は」

そう言いかけた、刹那。フウは身をよじり、宙を裂くように叫び始めた。

「いやっ!あなた誰!?お兄様、どこですのォ!!」

その視線はカエデをすり抜け、壁、床、天井と四方八方を行き来する。

「え?お兄様?お兄様っていうのは、誰…?私って、誰ですの!?」

「落ち着いてフウちゃん!お兄さんなら目の前にいるじゃないか!」

「ホトクラぁ!何なんだよ…もう、もうこれ以上忘れるんじゃねぇよ!!」

まさしく想定外といった状態に、皆はおろか、先生も慌て気味になりながらフウをなだめていた。

「みなさん!フウさんは興奮しているだけです!治まればまた思い出してくれるはずですから、とにかく部屋から出てください!」

「ふわわぁぁ~~ん!!ふわわわぁぁ~~~~んん!!!!」

俺たちは部屋の外に放り出された。

フウの悲鳴が聞こえる。一人。フウは今日初めて一人になる。

迷子になった子どものように、ただひたすらに泣き続けていた。


快晴。前の日の嵐が真っ赤なウソだったかのように、真っ青な空が雲を浮かべて笑っている。

スースーと寝息を立てていた少女が、ようやく目を覚ます。

「うぅん…ここは?どこですの?」

人差し指を顎の下に立てて、首を傾げる。

「えぇと。…そうですわ!たしかお兄様と一緒にお家に来たのです。それから…ふわっ!眠ってしまったのでしょうか?」

そこで封筒が置いてある事に気付く。差出人の名前を見るや否や、ビリビリと封を切る。

(フウへ

ゆっくり休んだか?今日はフウにお願いがある。フウに写真を撮ってほしいんだ。春の桜。夏の海。秋の紅葉。冬の雪。心に残る『何か』を、持っていてほしい。場所は隣町の丘の上。地図も付けておくから頼むぞ。忘れっぽいからって、来るのを忘れるなよ?約束だ!

…フウのお兄様より

p.s. 迎えに行くから家で待ってな)

フウは駆け出していた。家を出て、カエデのいる丘へ。

ふわっとした風が流れた。風とともに、流れゆく髪。


「待っていてください、お兄様!すぐに参ります!フウはお兄様との約束、絶対に『忘れない』ですからねっ!!」


==つづく==


//この物語に終わりはありません。更新は終了ですが、「つづく」とさせていただきます。
//ぜひ、後書きも見てください。ありがとうございました。
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