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イラスト中心で自由な感じ。[ユルく楽しくオリジなる]なブログです。

ウルエのかなた~シズ編~
 わたしは、この空が好きだ。いつも違う表情で、わたしを励ましてくれる。
 
父さんは気象学者だった。と言っても、別に偉いわけではないらしい。各地の観測装置を直すのが仕事。だから、西へ東へ行ったり来たり。わたしも一緒に付いていく。母親はいない。わたしが幼い頃に、病気で亡くなったと聞いている。……別に寂しくはない。父さんと一緒は楽しいし、いろんな空に会いに行くのも心地よい。

 ずっと、そう思っていた。だけど……。
**(…また転校か。父さんの仕事だし、しょうがないけど)

**(…いつも通り。……いつも通り、透明に。薄く過ごせばいいんだ)

先生「静かにー! 今日は転校生を紹介するぞー」

**「…許南静(モトミナ・シズ)です。……よろしくおねがいします」

 頭を軽く下げる。たぶん、1ヶ月いるかいないか。またすぐに転校だろう。……まあ、目立ったことさえしなければあっという間だ。これまでだってそうだったから。

先生「おい、信田! 聞いているか!?」

**「っへ?……あー。……な、何ページっすか?」

男子生徒が、必死にカバンを漁る。どうやら寝ぼけているようだ。短くカットされた髪の毛。光るように真っ白なYシャツ。なかなかに爽やかな風貌だ。

先生の顔を見ると、「やれやれ」と顔に描いてある。既に諦めている様子。

先生「じゃあそのまま教科書を開いてよく聞け! ……転校生だ」

先生「まったく。……許南、お前の席はあのアホの隣だ。不運だったな」

 わたしが席に寄ると、さっきの男の子が親しげに話してきた。

**「っあ、俺、信田ノブ(ノブタ・ノブ)です。えっと……、何かあったら、俺に言ってね」

 のぶたのぶ……。変わった名前。

シズ「…許南シズです。よろしく」

 挨拶の時と同じように、軽く会釈。わき目もふらず、さっさと席に座った。

ノブ「ははは……。よろしく」

あんまりそっけなかったかな。でも、これでいい。うん。

シズ(…薄く、薄く……、と)


シズ(…はあ~。いい風)

 数日経って、わたしの居場所を見つけた。運動場の観客席だ。風が気持ちいいし、あまり人も来ない。何より、空が良く見える。
 どうやら、陸上部の人達が使用中みたい。……注意もされないし、転校生に話しかけてくる人なんて、

ノブ「っあ、あの」

 ……話しかけられた。例のクラスメイトの、のぶた……、ノブくんがやってきた。(流石のわたしでも、名前くらい覚えてるよ)
 この人は背が高い。教室では椅子に座っているし意識していなかったけれど、クラスでも一番高いかもしれない。
 わたしに話しかけたってことは……、あれ、やっぱり邪魔だったのかな?

ノブ「許南さん、ここ最近毎日ここに来てるね。……好きなんだ?」

……そういえば、毎日来てるな。まあ、この場所は確かに好きになったから、

シズ「…好き、かな。……」

そう答えた。

シズ「…。……」

……? まだ何かあるのかな? もじもじしてる。

ノブ「……。……はは(笑)」

 うすら笑いを浮かべてる。へらへらしてるようだけど、どこか気持ちのいい笑顔だな。

ノブ「っじ、実はさっ。今週末に大会があるんだけど。よかったら来てくれないかな?」

ノブ「ほら、女の子が来ると部員のみんなも頑張れるかなって!」

 こういうお願いは、断るに限る。相手を傷つけないように、これでなかなか難しい所作だ。

ノブ「日曜は晴れるし、景色もいいからっ、ピクニックだと思って、ねっ?」

 ……そう言われると、予定は無い。(転校したばかりだし、当たり前だけど)
 景色もいいって言ってるし、どうせ家に居るのなら、とわたしは自然と承諾していた。


その週の日曜、わたしは指定された市民運動場を訪れた。なんのことはない。言われた通り、わたしは見事一日を空を眺めて過ごしたのだ。
そんな達成感のなか、気付けばノブくんが現れた。

シズ「…えと、ノブ……、くん。……負けちゃったの?」

 汗だくだ。身体中、汗まみれの彼が肩で呼吸している。汗と汗の間を、涙が一筋流れる。滝のように流れる、なんて例えがあるけれど……。汗ってこんなに出るものなんだ。

ノブ「ゴメン。俺カッコ悪くて」

 よく分からないけれど、謝られた。え? ノブくん、なにも悪いことしてないのに。

シズ「…そんなことない。……カッコ良かった」

 自ずと感想を述べた。……いやいや、カッコ良かったなんて、見てもいなかったわたしが言えないよね。でも、何だろう。なんていうかこんなになってまで、しかも見てもいなかったわたしに気付かずスポーツにのめり込んでいる彼を見たら。
 素直に「スゴいな」って思えた。本当だよ。


シズ(…ノブくん、また走ってる。辛く、ないのかな……? わたしならすぐやめちゃうのに)

 あれから、なんとなく運動場に近付けずにいた。汗だくで、泣きそうになって(まあ実際泣いてたか)、おまけにわたしにまで謝っちゃって。そんなに大変なのに、続けてる。ノブくん達男の子にしか分からない楽しさっていうのが、あるのかな?
 だとしたら……、羨ましい。あんなに熱中できるものなんて、わたしには何も無い。

シズ(…よし)

 こんなこと、以前までなら絶対になかったんだけどなぁ。どうしてだろう?

 空を見る時間が、減った気がする。


ウルエしず



――次の日の放課後。

シズ「…ノブくん。ちょっと」

ノブ「うわっ!? って、許南さん。いつの間に背後に!?」

シズ「…話があるの。……放課後、空いてる?」

そう言ってわたしは彼をカフェに誘った。今日はテスト前だから部活動も無いらしいし、彼と話がしたかった。わたしは話下手な方だけど、一生懸命な人を見たときって、誰かに伝えたくなるもんね。
場所は、クラスの女の子に聞いたカフェ。二人きりで喋りたいならそこがいいって評判の、ウワサのデートスポットなんだとか。

……もちろん、デートなんかじゃない。


ノブ「それで? 話って……。 俺、何かした?」

 ノブくん、やたら緊張してる。勘違いしてるんだろうか、自分が何か悪いことでもしたと思っているらしい。表情を窺う限り、どうやら冗談半分の発言だけど。……どうも彼は、優しすぎるらしい。
 だから、常に相手の心持ちを気にする。大丈夫? って確認する。……赤ん坊でもあやすように。

シズ「…お礼。この前の」

ノブ「……?」

 どうやらピンとこないらしい。

シズ「…この前の、大会。 とても、楽しかったから」

シズ「…わたし、運動苦手だから。ノブくん見て、びっくりした」

正直な想いを伝えた。本当に運動音痴で、そんなわたしでも、何か感じるモノがあったんだ。
そしたらお礼を言いたくなった。
励ましたくなった。
空が、わたしにそうするように。

ノブ「っそう、なんだ。ははは……。たいしたことなくて、ビックリした?」

シズ「ちっ、違うよっ!」

 つい大声を上げてしまった。うーん、どうして伝わらないんだろう? 大したことなくなんか無いって。
わたしなんて、グラウンド一周でギブだよ。男の子って、みんな自信無いのかな?

シズ(…。……)

しばらく考える。どうしよう。何を話したら、頑張れるかな。どうしたら、笑顔で走ってくれるだろう。

そうして、わたしはあの話をすることにしたんだ。

シズ「…実はね。また引っ越すの。来月の末に」

 そう、引っ越すんだ。当初思っていたより長く、期間は延びたんだけどやっぱり決まった。わたしの宿命だから。
 あれ? どうして……。応援しようとして、この話しちゃったんだろ?
 またしばらくして突然、今度はノブくんの方から切り出してきた。

ノブ「勝負しよう、許南さん! また今度、大会があるんだ。前のよりも、もっと大きいの!」

 話してくれたのは、とある大会の地区予選。上位何名かが、県大会に進めるらしい。勝負って何だろう。
 ただ一つ分かったのは……。話をしてる彼の瞳が、とても輝いていたってこと。


 場所は、この前の市民運動場だった、広くて駅からも近いこのグラウンドは、よく大会が開かれるらしい。勝負の内容は簡単。ノブくんが県大会に行けたら、わたしはこの町に残ること。クラスの「仲間」がいなくなるのは、やっぱり寂しいんだって。
 ……わたしも、仲間なんだ。なんとも、体育会系って感じだ。

ノブ「うおぉしっ!」

 行ってくる。彼は背中でそう言った。

 ルールとかはよく分からないけれど、健闘している。彼の必死さからそれが分かる。
 また、前の大会みたいに汗をダラダラ流して。今度は、わたしのために走ってくれて。また、謝ってくるのかな、彼。
 いや、そうはさせない。気が付けばわたしは、たぶん一生で一番の大声を絞り出していた。

シズ「ノブくーん! がんばれー!!」


その結果、彼は県大会へ。

 ……出場することはできなかった。


シズ「…ノブくん」

 次に会ったのは火曜日。屋上に一つの長い影が佇んでいた。

ノブ「俺の負け、だったよな。……ゴメン」

まただ。また謝らせてしまった。こんな時くらい、堂々とすればいいのに。
態度とは反比例して、彼の身長は以前よりも伸びた気がする。たくましい、という言葉がよく似合う。

シズ「…約束は、約束。わたし、父さんと町を出てくよ」

 これまでは、考えてもみなかった。いつも父さんと一緒にいたし、どこかに居座る理由が無かったから。
 ……これまで? 今は違う……、のかな。こんなこと、今さら考えても遅いのに。

**(俺が勝ったら、この町に残ってよ!)

 わたしの目の前には、いつもの彼がいた。この町に来てから、ずっと、……ずっと。

ノブ「こういうのって、フツーは負けた方が去って行くんだよな。マンガとかだと」

シズ「…ノブくん、出てく?」

ノブ「っいやいや! そんなルール無かったよ!?」

 楽しい。人と話すのは、こんなにも楽しい。

ノブ「許南さん、なんか変わったね。転校してきた頃は、ちょっと暗い子って思ってたのに」

 そんなの、ノブくんのおかげに決まってる。いつだって、励ましてくれるから。
 それとね、聞いてほしいんだ。わたし、もう決めたの……。

シズ「…ノブくんみたいに、強くなる。カッコ良くなるから」

だから、それまでは……。


 わたしの、空でいて。

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