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イラスト中心で自由な感じ。[ユルく楽しくオリジなる]なブログです。

ウルエのかなた~ノブ編~
 子供の頃の話。近所の兄ちゃんと仲良くて、よくランニングに連れてってもらっていたんだ。
 
その時に見える景色が綺麗でさ。二人して走るのがホント、楽しかった。その兄ちゃんはもう普通に働いているんだけど、俺は一人になっても走り続けた。いつか……、いつの日か、好きな人と一緒に走れたらなぁ~、なんて。そんな素敵な人が現れないかなぁ~。

 俺と一緒に走ってくれる、美人な彼女がさ。
先生「おい、信田! 聞いているか!?」

**「っへ?……あー。……な、何ページっすか?」

現代文の教科書を開く。今日も朝練がキツかったからなぁ。変な夢を見ていた気がする。

先生「じゃあそのまま教科書を開いてよく聞け! ……転校生だ」

 転校生? 見ると確かに、先生の隣には見覚えのない女子生徒が起立している。
 そういえば、今日だったっけ。女の子とは聞いていたけれど、結構可愛い。

先生「まったく。……許南、お前の席はあのアホの隣だ。不運だったな」

 アホて。やれやれ……。転校生に、いきなりマイナスイメージを植え付けないでほしいな。
 小さな身なりが近付いてくる。緊張しているのかも。ここは紳士的に……。

**「っあ、俺、信田ノブ(ノブタ・ノブ)です。えっと……、何かあったら、俺に言ってね」

 とびきりの笑顔で、ドンと胸を叩く。よし、これで少しは安心してくれたかな。

**「…許南シズです。よろしく」

 …………今、こっち見てくれなかったんだけど。俺の「頼れる感」アピールはスルーですか?
 さっさと席に着くと、彼女は授業の準備をして真っ直ぐに黒板を見つめている。

ノブ「ははは……。よろしく」

転校生と恋におちる、なんてやっぱりドラマの中だけなんだなと実感した。そりゃそうだよな。

それにしたって、少しくらい夢を見させてよ、転校生さん。


 俺のしょうもない願いは、意外な形で叶うこととなる。
 夢を見させて~、なんて思っていたら、彼女が毎日のように部活を見に来るようになったんだ。

ノブ(たしか、もとみなさんだっけ? 陸上、好きなのかな……?)

俺は陸上部に所属している。走るのが好きだから、なんて月並みな理由なんだけどさ。それがまさか、転校生に見学してもらえるなんて思わないから、男子部員みんながざわついている。

ノブ(それにしては、なんかうるさいな。……水色とか水玉とか)

今度は視線を部員たちから転校生へと移す。それでおおよその見当がついた。

ウチの制服、丈が短いからなぁ。


ウルエのぶ



ノブ「っあ、あの」

 俺は急いで客席に近付く。許南さんは非常にのびのびと座っている。どうする? えっと、まずは怪しまれないように会話して、それとなく移動させるか……、いや、体勢を変えさせるとか。そっちの方が簡単そうだな。

ノブ「許南さん、ここ最近毎日ここに来てるね。……好きなんだ?」

 その①、怪しまれないように会話。まずは率直な疑問をぶつけてみる。正直、彼女が陸上を好きかどうかは俺の青春を左右しかねない。

シズ「…好き、かな。……」

おぉう。 好き、かな。たしかにそう言われた。

ノブ(ま、まるで告白されたみたいだ! くうぅぅ~! 出来ればそのセリフ、俺の目を見て言ってくれ~!)

 そう、その答え自体は完璧に俺の理想通りだったものの、体勢どころか視線さえ動かさない彼女。うぅ……。もっと俺に関心持ってくれよ~。

シズ「…。……」

ノブ「……。……はは(笑)」

 うっ、沈黙が気まずい。何より、後方にいる男どもの視線が怒りとともに俺へと向けられ始めている。だって許南さんと同じクラスって、俺だけだし。俺しかいないじゃん。
 早くしなくちゃ……。そっ、そうだ!

ノブ「っじ、実はさっ。今週末に大会があるんだけど。よかったら来てくれないかな?」

 その②。それとなく移動させる。そう、俺は大きな賭けに出た。会って数日でいきなりこんな風に誘っても、返事はNOに決まってる。

ノブ「ほら、女の子が来ると部員のみんなも頑張れるかなって!」


 だがしかし、来てもらえるなら、それを理由に携帯の番号を交換→あっごめん携帯部室なんだ~→ちょっと来てくれない?→移動完了!
 もしかしたら、面倒な奴だと思われるかもしれない。だがしかし! それでも彼女のため、ここは意地でも番号交換してもらう!

ノブ「日曜は晴れるし、景色もいいからっ、ピクニックだと思って、ねっ?」

……目的を忘れてなんていないっ! 俺は、この美少女を大会に誘うんだっ!


 その大会終了後。俺は許南さんのもとに近寄る。軽い気持ちだったんだけど、本当に来てくれた。

 ……来て、くれたのに。

シズ「…えと、ノブ……、くん。……負けちゃったの」

 彼女の視線が、俺に突き刺さる。おかしい。俺が求めていたのは、こんな刃物なんかじゃなかったのに。
 急に自分が情けなくなってきた。悲しくなってきた。

ノブ「ゴメン。俺カッコ悪くて」

 そう、だ。謝らなくっちゃ。わざわざ来てもらったのに、こんな弱々しい姿みせちゃって。

シズ「…そんなことない。……カッコ良かった」

 カッコ良い? はは……。お世辞でも嬉しいな。

 いや、……やっぱり。ちっとも嬉しく思えなかった。

 今日の俺は、とことん、無様だ。


ノブ(許南さんは来てない、っか。当然だよな。あんな様じゃあ……)

 あの日以来、許南さんはグラウンドに現れない。どうやら俺の日常が帰ってきたらしい。そう、いつも通りだ。淡々と走り、黙々と走る。走り込むのが俺の陸上。

ノブ(「あの日以来」ってことは、許南さん俺目当てで来てたんだと思うんだよなぁ)

わずかな希望はあった。でもそれは、救いを求めるにはあまりにも脆弱で、低俗な気がした。求めてはいけないモノだった。
 嫌われてしまったのなら仕方ない。これまで以上に部活に打ち込むだけ。うつつを抜かしてなんていられない。
 ……ハァ~。


――次の日の放課後。

ノブ(あれ? 俺どうして……、許南さんと一緒にカフェにいるんだ?)

どうやら俺には、ハプニングの精霊でも憑いているらしい。あろうことか、今俺は許南さんと二人きりでカフェにいる。こんな事態になったのは、まさしく突然の出来事だった。


 俺は悩んでいた。……俺だって悩むことぐらいあるよっ。今度の大会のことだ。俺は最近調子が出ない。
 子供の頃なら間違いなくトップランナー。いつだって一番だったんだ。なのに最近の俺は。どうしよう。こんなはず。……

シズ「…ノブくん。ちょっと」

ノブ「うわっ!? って、許南さん。いつの間に背後に!?」

 まったく気付かなかった。……許南さんの存在感の薄さが原因のような気もしないでもないけれど。

シズ「…話があるの。……放課後、空いてる?」


 そうして連れてこられたのがここ。でも、二人きりってことは……?

ノブ(まさか、で、デデデ、……デート!?)

 このカフェでデートすると、二人はカップルになれるという。学校での有名なウワサ。
 そりゃウワサ知っててデートしてる時点でカップルだろ、というツッコミでお馴染みのカフェだ。

ノブ「それで? 話って……。 俺、何かした?」

 現実に戻って、話をする。何だろう、話って。なんだろう、はなしって。

シズ「…お礼。この前の」

ノブ「……?」

 この……、前? え? 俺何したっけ? ホントに。

シズ「…この前の、大会。 とても、楽しかったから」

 なんだ。この前って、俺が負けた時のことか。でも、そのお礼って何だ? むしろ「謝ってよ」ぐらい言われてもしょうがないと思うんだけど。

シズ「…わたし、運動苦手だから。ノブくん見て、びっくりした」

 もしかして、慰めてくれてる……? そういうことか。顔も心もキレイな許南さんは、俺が不憫でならないと。

ノブ「っそう、なんだ。ははは……。たいしたことなくて、ビックリした?」

 自虐的に、自嘲する。自分の中では本音だけどさ。強ち、間違ってないかも。

シズ「ちっ、違うよっ!」

 そんなことを考えていたら、不意に風船の破裂音のように許南さんが叫んできた。
 っびっっくりしたぁ~! あの許南さんが大声出すなんて! さっきから驚いてばかりだ。許南さんがカフェに誘ってくれたり、許南さんが大声出したり。

ノブ(……)

 なんか……。俺の日常イベントって、許南さんしか無いんだな。だって、他は走ってばっかりだしさ。男友達といてもウキウキなんてしない。一人でいたらなおさらだ。許南さんだから、だな。
そんな彼女が、真っ直ぐ俺を見て声をかけてくれている。いつからだろう。いつからかキミは、俺の方を見てくれるようになった。
いつもは、ボーっと空ばかり見てたよな。そんなマイペースなところが、実はちょっとだけイヤだったんだ。俺は、走らなきゃいけない。なのにそんなにゆっくりしないでほしい。一緒に、ついてきてほしかったんだ。許南さんがいたから俺は……。

シズ「…実はね。また引っ越すの。来月の末に」

 えっ……? 今度は俺が風船になって割れてしまいそうだった。転校って? 俺たち、まだ知り合ったばかりだろ? そのまま、許南さんは黙り込んでしまった。
 そんな。驚きも少なからずあったが、それよりも強く思うことがあった。それは、部活のこと。

ノブ(俺、カッコ悪いままだな。許南さんが居なくなる前に、少しぐらい良いとこ見せなきゃ)

 ちょっと間が空いてしまったが、俺はようやく乾いた口を開いた。

ノブ「勝負しよう、許南さん! また今度、大会があるんだ。前のよりも、もっと大きいの!」

 昼間悩んでいたことを、思い切ってぶちまける。困難な壁でも、彼女と一緒ならもしかして。今思うと、俺はやけになっていたのかもしれない。

 俺はすがるように、話を持ちかけた。


 大会の日はとにかく晴れた。快晴だ。ただ、俺の気持ちだけが曇っていた。
 許南さんと話したのは、今日の日程と、簡単な「賭け」……ギャンブルだ。別に金を賭けるとかっていうんじゃないけどさ。
 俺が県大会に行けたら、転校しないでくれというもの。我ながら女々しいなと思う。でも今は、げんを担ぐ何かが欲しかった。

ノブ(これでもう、負けられないな俺。これでもう……)

実際、俺が活躍したからといって、彼女の転校が白紙になるとは思えない。
むしろ、「…約束したのに。」とか言われたり、負けた時のことを考えるとリスクの方が大きいだろう。

ノブ「うおぉしっ!」

 もう考えるのはやめよう。とにかく、走ろう。走ろう。気合いを入れ、後は何も言わずフィールドへ向かう。そのうち時間となり、俺は競技を開始した。
 正直、今日は不調だった。最近はいつもスタートで出遅れる。なんとかついていっているけど、このままじゃ……。

シズ「ノブくーん! がんばれー!!」

いや、今日は負けられない。なんてったって、俺には勝利の許南様がついているんだから。今日は空なんかじゃない。間違いなく、俺を見てくれている。それだけで十分だ。
俺、多分人生で一番頑張ったと思うんだ。


その結果、彼は県大会へ。

 ……出場することはできなかった。


ノブ(終わった……。部活も、恋も)

 俺の全力って、こんなものだったんだ。それが分かって、残念というよりむしろ清々しい気持ちだった。ホントは悔しがらないといけない。でも、ホントに「走りきった!」って感じだった。
 許南さんには何て言おうかな?
 転校して居なくなっちゃうんだよな。そう思い、ふと外に目をやる。

ノブ(キレイな夕焼けだなぁ)

 許南さん、いつもこんな空を見てたんだな。夢中になってしまうのも、今なら分かる気がする。
 俺、何を焦ってたんだろう。どうして、もっとちゃんと空を見なかったんだろう。こんなにも優しく包み込んでくれていたのに。今更になって、許南さんの気持ちを理解できたんだ。

シズ「…ノブくん」

 許南さんだ。うちの学校は割と開放的で、屋上も自由に入れる。とはいえ、今日は待ち合わせた訳でもないのに。よく見れば、彼女は息が荒れ、顔も紅潮していた。

ノブ「俺の負け、だったよな。……ゴメン」

シズ「…約束は、約束。わたし、父さんと町を出てくよ」

 やっぱり……、これで終わりなんだ。許南さんとも。やっぱり寂しいな。
 ゴメン。俺、やっぱり何も出来なかった。

ノブ「こういうのって、フツーは負けた方が去って行くんだよな。マンガとかだと」

シズ「…ノブくん、出てく?」

ノブ「っいやいや! そんなルール無かったよ!?」

 彼女が笑う。だから、俺も笑う。彼女と居ると、自分が許される気がした。何かから。

ノブ「許南さん、なんか変わったね。転校してきた頃は、ちょっと暗い子って思ってたのに」

 酷い勘違いだった。暗かったのは、俺の方。許南さんはいつだって、輝く太陽のように俺のことを照らしてくれていたんだ。

ノブ「…俺、決めたんだ。今よりもっと、強くなる。カッコ良くなるから」

焦らなくてもいい。俺は、走るのが好きだ。でも、ゆっくり走るのも悪くない。
だからさ。また俺のこと……、見ててくれよ。今度は俺が……、俺がさ。


 キミの、空になるからっ!

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