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イラスト中心で自由な感じ。[ユルく楽しくオリジなる]なブログです。

ウルエのかなた2~空と陸~
「それにしても許南(もとみな)せんせい、いつもウルエに厳しいねぇ」

 キラちゃんが、我が陸上部の顧問の話題を振る。許南シズ先生。陸上部顧問にして、私のクラスの担任。どんな人かと言うと。ま、俗に言うラスボスというやつを想像してもらえれば概ね合致するだろう。

「あの人、私のことが嫌いなんだ。きっとそうだよ。うー、私ばっかりひどいよね、ね?」

 ここぞとばかりに愚痴る。ほぼやつあたりに等しいが、こればっかりは誰かに聞いてほしい。
 実のところ、私の口から出る愚痴の大半はその先生のことなのだ。何の因縁か、私に対しては何かの仇のように厳しい。なんだろう。私、変なことした記憶は無いのに。

ラスボスなシズ先生

「うぅん、キぃね、それは期待の表れだと思うなぁ。だってせんせい、厳しくてもちゃあんとウルエを見てるもん」

 真っ直ぐと私を見て言うキラちゃん。どうも、彼女には先生の脅威が伝わっていないらしい。愚痴を聞いてはくれるけど、私の意見はいつも否定されてしまう。

「だってさ、みんな休憩入ってるのに、私だけ走らされたじゃん。鬼の形相で。あれ絶対虐待だよ、DVだよー!」

「ウルエ、それ家庭内暴力。もぉ~、そんなにボケないでよ~」

 部活帰りだからしょうがない。疲れていると、ツッコミ側に回るほどの体力が残っていないからしょうがないんだ。

「そ~れ~にぃ、他にも走ってる子いたよ? ほら、一年生の男子」

 人差し指を天に向けて、彼女は私を諭すように続けた。

「ウルエだけじゃないでしょ~。せんせいは頑張れる子を伸ばそうとしてるんだよ。だから、いじめじゃないのぉ」

「それは、その1年の子が特殊なんだよ」

 私は足を止め、眉をひそめた。少しだけ声を低くして、キラちゃんの方を向く。

「金田陸玖(かなだ・りく)。あの子はね、追加で走ってたんじゃなくて、そもそも周回遅れだよ」

「あいつはダメだね。スタミナが無けりゃ瞬発力も無い。悪いけど、向いてない」

「フォームもなんか変だし。たぶん、人の動きを見てマネてるな。なーんか、自分の走りっていうのが無いんだよねー」

 ザクザクと切り捨てる。私の意見を遮ることなく聞いていたキラちゃんが、小さく呟いた。

「なんだ、ウルエも女の子だねぇ」

 すごく小さく呟いた。けれど何故かそれは私の耳に響き、今度は私の口が止まる。

「1年生の男子までチェック済みか。ウルエはほんと、好きなモノには一途だね~。陸上も、他のことも」

「ち、違うよ。あんまり遅いから覚えてただけ。私は陸上好きなだけだって」

 私たちは高2だから、頼れる先輩がいれば頼られる後輩もいる。そうなると後輩の面倒を見なければいけないのが世の摂理だ。例え面倒なことであっても、こればかりは必要最低限乗り越えていかなければいけないのだろう。

 その中でも彼は著しくレベルの違う子なのだ。……悪い意味で。

「ふぅん……。そっかぁ、ざ~んねん。ウルエのニュー彼氏かと思っちゃった」

 私の先輩としての責任感を、色恋沙汰とでも勘違いしたのだろうか、至極残念そうに歩みを再開するキラちゃん。友達の恋愛事情を知りたいという気持ちはすごく分かるし、キラちゃんみたいな子なら尚更だろう。

 でも私だって、出来たばかりの単なる後輩を恋仲にされても困る。当分の間は陸上を恋人にすると決めているのだ。

「でも、羨ましいなぁ。陸上好きって、はっきり言えるんだもん。そういうのって、すっごくかっこいいと思うなぁ」

「えー?」

 それは私の台詞だ。キラちゃんみたいに女子力高い子の方がよっぽど魅力的だと私は思う。こういうの、“隣の芝は青く見える”って言うんだっけ?

 私の反論を待たずして前に立つと、彼女はとびっきりの笑顔でウィンクした。

「大丈夫。ウルエなら部活の練習だって、せんせいのお仕置きにだって耐えられるから。キぃはそう信じてます」

「お仕置きって言っちゃうんだ……」

 なんだかふわっとしたけれど、心のこもった激励のおかげで腹の虫も治まっていた。

 駅に着くと、タオルを返却し彼女と別れる。別々の電車に乗り、空いている席に座り、そして余ったスポーツドリンクを飲み干す。また明日も、頑張らなくちゃ。

 降りる駅まではもうしばらくあったため、ゆっくりとまぶたを閉じる。と、その一瞬に何か違和感があったような気がした。

(誰かいる……? 私の知ってる誰か……)

 すぐに目を開いた。引き寄せられるように、彼と目が合う。

(げっ、金田陸玖)

=つづく=

空と陸。交わるはずのなかった出会い。

次回、お勉強。
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