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イラスト中心で自由な感じ。[ユルく楽しくオリジなる]なブログです。

ウルエのかなた2~理由~
「いやー、今日も練習キツかったよねー。あの先生の前世は鬼だからさ、気を付けた方がいいよ?」

「お、鬼だなんてそんな。許南先生は怖いですけど、間違ってはいないと思います」

「間違ってる、間違ってないの問題じゃあないって。リクだって、今日もぶっ倒れてたじゃん。救急車来るかと思ったよ」

「それは、きっと、先生が僕を鍛えるために……」

 リクの家が私の家から少し先だと知って、少し驚いた。今まで意識していなかったとはいえ、かれこれ三ヶ月近くニアミスしていたのかと思うと、なんだか不思議だ。
 それからは電車で会う度、私の愚痴を聞いてもらっている。いや、コミュニケーションで、だからね? キラちゃんにも聞いてもらっているんだけれど、ネタって尽きないものだ。

 キラちゃんの場合、話を一通り聞いてくれた後に結論を言ってくれる。私は話したいことを全部言えるし、話の腰も折れないからスマートで、大人な会話って感じなんだ。

 対してリクは、私の一言一言に反応してくれる。正直、[最後まで聞けよ!] と思うこともあるけれど、話しがいがある。

「ていうか、間違ってないって何? 生徒をヘトヘトにしてるのが鍛えてるって? そんなんじゃ、そのうち誰かがケガしちゃうよー」

「そんなことないです。あの、凄く大変な練習をした日の翌日って、少しだけですけど楽なんです」

「無い、ナイ。楽な日なんて今まで一回もないね。毎日が関ヶ原ぁーだよ」

 電車の背もたれに体を預け、天を仰ぐ。今日も無事生き延びた。私の生命力のおかげだ、誰かのおかげなんかじゃあないはずだ。

「で、でもほら、先週だって。特別メニューをこなした次の日は、室内で筋トレだったじゃないですか。アレってほぼ自主練習だったじゃないですか」

「そ、そうだっけ? でもさ、でもさ。たしか雨だったからでしょ?」

 リクの珍しく力強い眼差しに、思わず声が上擦った。

「逆ですよ。次の日が雨だから前日にハードな練習をする。先生も計画性を持って臨んでいるんだと思います」

「ウ、そ、そうかもしれないけど」

 ……リクのこういうところが嫌いだ。気付けば攻守逆転。結局、キラちゃんと同じで、私の意見が否定されてしまうことには変わりないのか。

「だから、明日はちょっと楽ですよ、きっと」

「はぁーー。マジメだね、リクは。普通は抵抗すると思うけど。走るの、好きなんだ?」

 きっかけは、ふとした一言だった。

「はい。好きです」

 とても短い一言。その声が、空気に優しく溶けた。私を、温めてくれた。

 それだけで良かったのに。それ以上の何かなんて、必要無かったのに。

「でも……、それだけじゃなくて。あの、せ、先輩。実は、僕……」

 電車が大きく揺れる。もうすぐ駅に着くのだろうか、周りの風景が徐々に速度を下げる。

 ……降りよう。

「じゃ、じゃあ、私ココで降りるから! また明日ね、リク!」

 たまらずその場から駆けだしていた。自分から聞いておいて、なんなんだと思われただろう。私だって、同じことをされたら失礼な奴だと感じたに違いない。

 でも、知るのが怖かった。続きの内容じゃなくて、[続きが存在する]ということを。

 それだけじゃ、なくて? 走るのが好きなだけじゃ、いけないの? 好きなことをするのに、理由がいる。私にとっての非常識を、後輩は常識として語る。

(私、どうして走ってるんだろ……)

知るのが怖かった。目の前のコースに分かれ道なんてあったら、私は真っ直ぐ走れなくなってしまうから。

ひとなつの想い

=つづく=

リクの走る理由って……?
次回、「キぃのお話」。
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